神戸家庭裁判所 昭和53年(少)1634号 決定 1978年6月09日
少年 B・Y子(昭三八・四・八生)
主文
少年を教護院に送致する。
少年に対し強制的措置をとることを許可しない。
理由
(非行事実)
少年は、昭和五一年四月川西市立○○中学に入学したが、同中学一年当時から怠学が始まり、一時豊中市立○○中学に転校したものの態度が改まらず、昭和五二年一〇月、怠学、不良交遊等により兵庫県摂丹児童相談所に相談依頼がなされ、同所より一時保護(昭和五二年一一月四日より同月二一日まで及び昭和五三年三月一七日より同月三〇日まで)及訪問指導、通所指導等の指導を受け、昭和五三年三月三〇日前記児童相談所長より教護院である兵庫県立○○学園に入園措置がとられたところ、二日後に同学園を無断外出し、翌々日連れ戻されたが再び一日後に無断外出し、帰園を拒否し保護者も少年に同調したこと等により入園措置が停止され、在宅のまま再度前記児童相談所の指導を受けていたものの、同年五月八日家出し、同月一九日、○○署に保護されるまで所在を晦ましていたものであるが、昭和五二年夏頃より現在に至るまで暴力団員を父に持つA子その他非行性の強い者等との不良交遊、同女方での夜遊び、同女方への無断外泊、怠学を繰り返し、その間、前記児童相談所、保護者等の指導に一向に従う態度を見せず、その性格又は環境に照らして、将来罪を犯す虞れのあるものである。
(適用法令)
少年法三条一項三号イ、ロ、ハ、ニ
(処遇の理由)
本件は、少年の不良交遊が保護者、児童相談所等の指導にかかわらず一向に改善されずかえつて深化しているという要保護性の高い事案である。
少年は、I・Qが五四で限界級の知能しか有さず、そのため中学校に入学後は学業についていけず、そのころ非行性の高いA子と知り合い、同女及び同女を通じて知り合つた同様に非行性の高い少年等との交友が始まり、以後同女等との不良交遊が徐々に深化し、怠学、同女方での夜遊び、無断外泊が多くなり、時には保護者や中学校教諭がA方に連戻しに行く等したが、その際にはA子の父で暴力団員であるBが少年の引渡しを拒否しかえつて保護者宅へ文句を言いに来るありさまで、保護者の監護が行届かず、又少年は時々祖母宅に出入りししばしば宿泊をするが、祖母自身が高齢の上、少年に喫煙の仕方を教えたり、怠学していても強く注意せず、常に少年の母親の悪口を言う等監護に無能かつ不適当であり、祖母宅も保護者の監護が行届きにくく、保護者は、少年の前記問題行動に対し、注意をし、時には暴力を振るつたりするが従わせることができず、特に母親は自身能力が低く、一方では少年に対し十分にしつけをしておらず少年を溺愛し、泣きつかれると少年のわがままを許しておきながら、他方では少年の問題行動に悩み困つている状況で、監護能力に乏しいと言わねばならず、児童相談所も前記のごとき指導をなしたところ、少年は一時的には反省し行動を慎むがしばらくすると再び元の状態に戻り、前記A子らとの不良交遊を始めるといつた状況が再三再四繰り返されており、その指導も限界に来ている観がある。そして、少年は本件により鑑別所に入所し、一定程度は反省しているようであるが、少年の前記知能極端に幼児的依存性の強い自己中心的な性格、過去の行動歴、指導歴から考えて、本件による鑑別所入所体験のみによつて行動を修正することが期待し難く、現在のままで在宅保護を継続するならば、やがて元の状態に戻り再び不良交遊を始めるのではないかとの危惧の念を禁じえない。したがつて、少年を現在の環境から切り離した上で学習及び生活指導を行なうのが相当で、少年の家の転居予定もないことから、施設に収容するのもやむをえないものと思料される、
そこで、いかなる施設に収容保護するのが妥当かを検討するが、本件は、少年法三条一項三号としての送致とともに、同法六条三項による国立教護院における強制措置許可申請もなされているのであるから、右申請の許否についても併せ考察すると、少年は現在一五歳であること、過去に家庭裁判所に係属したことがないこと、非行性の程度についても過去に犯罪行為を犯したことがなくただちに強制措置をとらなければすぐにでも重大犯罪を犯す虞れがあるとはいえないこと、前記○○学園の在園期間が実質三日間と極めて短かいこと、同学園がもう一度少年の保護を続けてみたい意向であること、少年の前記精神知能の発達程度及び性格からみて地理的に保護者との接触の機会を多く保てる施設が妥当であるところ強制措置をとれる国立教護院は地理的に少年の家から極めて遠方にあること等を考慮すれば、国立教護院への収容及び同院において強制措置をとる必要性は未だ存在しないものといわざるを得ず、むしろ前記○○学園における教護が適当であると思料される。
よつて、少年法二四条一項二号を適用して主文のとおり決定する(尚裁判所の決定により少年を教護院に送致したので、本件を送致してきた兵庫県摂丹児童相談所長に必ずしも事件送致決定をする必要はないものと考える。)。
(裁判官 榎本巧)